ワークロードによって、システムの CPU に対する要求は異なります。通常、プロセッサーは、ワード・プロセッサーを実行したり、ウェブの閲覧などの軽量なリクエストを簡単に処理することができます。しかし、ゲームをしたり、ビデオを編集したり、コンテンツをストリーミングするなどの膨大なタスクは、より負荷がかかります。
ブースト・テクノロジーはこの違いに対応し、インテルのプロセッサーが、作業中のジョブに適応できるようにします。これは、CPU フリークエンシー (動作周波数) を上げることによって行われます。
ブースト動作の仕組みを説明する前に、理解しておくべき 2 つの仕様があります。
基本動作周波数とは、システムが動作していない状態や軽負荷の時に CPU が実行するフリークエンシーのことです。基本動作周波数で実行している時は、CPU の消費電力と発熱量は低くなります。常にフルスピードで動作させるのではなく、時々低いフリークエンシーで動作させることで、プロセッサーの寿命を延ばすことができます4。
最大ターボ・フリークエンシーとは、ゲームのような要求が厳しいアプリケーションで、CPU に負荷をかけた場合に、CPU が目標とするフリークエンシーのことです。これは、CPU がオーバークロックなしで達成する、シングルコアの最大フリークエンシーのことです。
システムに十分なパワーとサーマル・ヘッドルーム (高性能な空冷式または水冷式の CPU クーラーなどを考慮した場合) があれば、より負荷の高いワークロードに対応するために、フリークエンシーを飛躍的に向上させることができます。
最新世代のインテル® Core™ CPU では、複数のブースト・テクノロジーが連携して動作し、その中には単一のコアに影響するものもあれば、新しいアダプティブ・ブースト・テクノロジーのように、複数のコアに影響を与えるものもあります。以下にそれぞれの項目について掘り下げて説明しますが、簡単な参照表はこちらをご覧ください:
概要 | 機能 |
---|---|
インテル® ターボ・ブースト・テクノロジー 2.0 | より集中的なワークロードを処理する際に、全コアのフリークエンシーを、基本動作周波数より高くし、指定された最大フリークエンシーまで上昇させます。CPU が電力、電流、温度の制限内で動作している場合に可能です。 |
インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 | 優先する 1 つまたは 2 つのコアのフリークエンシーを上昇させます。CPU が電力、電流、温度の制限内で動作している場合に可能です。 |
インテル® Thermal Velocity Boost | 状況に応じて、クロック周波数を最大 100MHz まで上昇させます。CPU の温度が制限内 (デスクトップは 70°C、モバイルでは 65°C) で、ターボ機能向け電力の範囲内で可能です。 |
シングルコア TVB | 優先する 2 つの CPU コアのうち、より高速なコアをターボ・ブースト・マックス 3.0 を上回る速度に上昇させます。 |
全コア TVB | すべてのコアがアクティブで、CPU が温度の閾値以下の場合、超高速で動作します。 |
インテル® アダプティブ・ブースト・テクノロジー | 電流、電力、サーマル・ヘッドルームがある場合、状況に応じて、全コアのターボ周波数を上昇させます。制限温度 100°C 以下で動作します。 |
ターボ・ブースト 2.0 とは?
インテル® ターボ・ブースト・テクノロジー 2.0 は、2011年以降リリースされたインテル® Core™ i5、i7、および i9 の多くの CPU に搭載されており、誰もが一度は耳にしたことがあるブースト・テクノロジーでしょう。
これは前述のブースト動作のベースライン・バージョンと考えることができます。これは、軽量の作業時には、CPU を低い基本動作周波数で実行し、ワークロードがピークになると、高いフリークエンシーで実行させる、電力効率の高いテクノロジーです。
ターボ・ブースト 2.0 はすべてのコアをブーストします。また、速度上昇の効果を得るためには、CPU が電力、電流、温度の制限内で動作する必要があることにご留意ください。
ターボ・ブースト 3.0 とは?
製造上の違いにより、プロセッサー・コアの可能な最大周波数は異なります。インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 は、CPU 上の最速のコアを 2 つまで、「優先するコア」として識別します。次に、それらのコア (またはそのコア) にフリークエンシー・ブーストを適用し、重要なワークロードを割り当てます。
インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 は、ターボ・ブースト 2.0 を置き換えたものではありません。これは、優先するコアに追加のブーストを与えるもう 1 つのテクノロジーです。これにより、軽量なスレッド化されたアプリケーションのパフォーマンスが向上します。
それと比較して、マルチスレッド・アプリケーションは、より多くの作業を並行して実行し、コア数の増加やハイパースレッディングなどの機能によって拡張します。
ゲームや多くの一般的なアプリケーションでは、高周波コア 4 が頼りになり、インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 のメリットがあります。
他のブースト・テクノロジーと同様に、インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 が効果を発揮するためには、電力、電流、温度が、仕様の設定値以下で動作する必要があります。
サーマル・ベロシティー・ブーストとは?
2018年に導入されたインテル® サーマル・ベロシティー・ブースト (TVB) は、サーマル・ヘッドルームとターボ用電力が利用可能な場合に、追加の CPU のパフォーマンスを開放するテクノロジーです。これは、インテル® Core™ CPU が、より高い最大ターボ・フリークエンシーに到達するための、技術スタックのもう 1 つのビルディング・ブロックです。
TVB は、プロセッサーが 70°C の温度の閾値未満になると、クロック周波数を 100MHz 増加させます。モバイル向けの CPU の場合、温度閾値は 65°C 以下になります。Cryo Cooler などの高性能な空冷式または水冷式のクーラーを使用することで、システムの温度を閾値以下に保つことができます。
TVB は、バースト的なワークロード (CPU 使用率が急激に上昇するプログラム) に対応するのに最適です。これにより、システムのレスポンスにおけるパフォーマンスが一時的に向上し、通常気付くことの多い速度低下が解消される可能性があります。
作業中のタスクに応じて、TVB は、単一のコアまたはすべてのコアのフリークエンシーを上げることができます。
シングルコア TVB は、CPU の最速コアに影響を与えます。これは、インテル® ターボ・ブースト・マックス・テクノロジー 3.0 により優先的に動作するコアのパフォーマンスをさらに向上させるためのものです。
全コア TVB はすべてのコアを強化し、通常のブースト動作に加えて、最大 100MHz までのフリークエンシー向上を提供します。
アダプティブ・ブースト・テクノロジーとは?
インテル® アダプティブ・ブースト・テクノロジーは、以前のターボ・ブースト・クロック速度を超えて、全コアのターボ周波数を機会を見て増加させます。
アダプティブ・ブーストのメリットは、多くの最新ゲームを含む、複数のコアで拡張するカテゴリーである、マルチスレッド化されたプログラムで発揮されます。また、ゲーム、ストリーミング、Discord を同時に実行するような、マルチタスクの状況にも役立ちます。
インテル® アダプティブ・ブースト・テクノロジーは、CPU が ICCMax 制限 (最大電流) を下回り、および温度制限が 100°C 以下の場合に作動します。つまり、サーマル・ベロシティー・ブーストの閾値である 70°C を超える温度でも、動作を維持することができます。
アダプティブ・ブーストによるフリークエンシーの上昇やその持続時間は、さまざまなワークロード、冷却ソリューション、およびプロセッサーの機能によって異なります。
CPU に影響を与える、その他のブースト・テクノロジー
上記のテクノロジーは、CPU のフリークエンシーに影響を与える、主なブーストです。しかし、その他のテクノロジーは、特定のアプリケーションにおける CPU の動作を最適化するのに役立ちます。
インテル® ディープラーニング・ブーストは、複雑な AI ワークロード向けに設計されており、AI の推論やデータセットからの学習を高速化します。これにより、画像分類、翻訳、音声認識、その他のタスクに役立ちます。日常的なユーザーにとっては、AI が支援するいくつかのタスクを迅速に行えるようになります。例としては、アルバムの画像を、被写体や場所ごとに自動的に分類するプログラムを使用するなどが挙げられます。
オーバークロックをしながら BIOS で UEFI オプションを探査すると、インテル® スピード・シフト・テクノロジーという言葉を目にする機会が多いでしょう。2015年に導入されたこの技術は、CPU のフリークエンシーをより緻密に制御し、最大動作周波数への素早い飛躍を可能にします。これにより、システムの応答性と効率性が向上するため、スピード・シフトをイネーブルドにしておくことを推奨します。
ターボ・ブーストを使用する方法
ターボ・ブースト・マックス 3.0 やアダプティブ・ブースト・テクノロジーなどの技術によるパフォーマンス向上は、それに対応する CPU さえあれば、体験することができます。ほとんどのブースト・テクノロジーは、コンフィグレーションの必要はありませんが、新しいアダプティブ・ブーストは BIOS 設定で有効にする必要があります。