コストの増大、人口の高齢化、慢性疾患の有病率により、医療業界は転換期を迎えています。2030年までに、世界の医療費は前例のない 18.3 兆米ドルに達すると予測されています。1 このような傾向に対応すべく、支払いモデルではすでに、量に基づく支払いから結果または価値に基づく支払いへとシフトしています。
予測分析は、医療機関がこれらの新しいモデルに対応できるようにしつつ、患者ケアや転帰を向上できるように支援します。敗血症性ショックや心不全などの重篤な症状の予測から再入院の防止に至るまで、ビッグデータ分析や AI の活用は進歩しています。このような最新技術が、臨床医が転帰を向上し、コスト削減を図るための新しい予測分析ソリューションを後押ししているのです。
健康分析の予測データの活用
医療のデジタル化が進み、膨大な量のデータの新しいデータセットが作成されています。こうしたデータセットには、電子医療記録 (EMR) システム、医療費請求データ、放射線画像、検査結果が含まれます。近い将来、ゲノムデータも大幅に増加することでしょう。
新しいデータは、患者のウェアラブル・デバイスやモニタリング・デバイスといったエッジの医療機器の増加によっても生成されています。また、臨床以外の場でも、患者個人のウェアラブル・デバイスやフィットネス・トラッカー、ヘルス・アプリケーションを使用することで類似の健康データが生成されています。
このような幅広いソースからデータを組込むことで、医療提供者は、医療診断の予測分析、健康リスクに対する予測モデリング、さらには高精度医療の処方分析に対する新しいソリューションを強化できます。
ただし、データを臨床結果に変換するには、性質の異なるデータセットから値を抽出するように設計されたハードウェアとソフトウェアの基盤が必要になります。ある調査により、半数以上の医療機関で包括的なデータガバナンスが策定されていないことが判明しました。2 つまり、医療データの大部分が手付かずのまま残っているということになります。
データの効率的な移動、保存、処理機能と、ビッグデータ・プラットフォームの強化、そして AI モデルを実行するよう設計されたテクノロジーのポートフォリオを活用して、インテルとパートナー企業は医療機関と連携し、予測分析を機能させるための取り組みを行っています。
インテル® Xeon® プロセッサー・ベースのビッグデータ・プラットフォームを使用した予測分析により、大手病院グループは年間コストを 1 億 2,000 万ドル削減できました。
医療における予測モデリングの特長
予測分析は、あらゆる健康分析戦略における重要な部分といえるでしょう。今日では、行動、心理社会的、生体認証データを測定、集約、理解するための重要なツールですが、つい最近までは利用できないか、あるいは把握することが極めて困難なものでした。
予測分析は、個人レベルでは医療提供者が適切なケアを適切な患者に適切なタイミングで提供できるようサポートします。大きなレベルでは、医療システムがより大きな傾向を特定して理解することができるようになるため、公衆衛生戦略の改善へとつながります。
一例をご紹介しましょう。エボラ出血熱の研究者は、ソーシャルメディアや検索エンジンからの情報を含む大量のデータとビッグデータ分析を使用して、エボラ出血熱がどのように拡散されているかに関するモデルを開発しました。エボラ出血熱に侵された可能性のある個人は、症状をモバイルアプリに入力します。モバイルアプリは地理座標を使用して、エボラ出血熱が活発化しているコミュニティーの住人にその個人が接近したかどうかを確認できるようになりました。3
予測分析を使用すると、ケアの強化だけでなく大幅なコスト削減も行えます。例えば、患者の入院期間と再入院率に対する精度の高い予測モデルにより、病院はペナルティーを回避し、運用コストを削減できます。電子カルテ (EHR) と予測分析を活用することで、医療提供者は予約を守らない可能性のある患者にフラグを付けることができます。そうすることで、このような患者に留意したり、予約を守ることができるようにシステムでサポートしたりできます。
予測分析が秘めている大きな可能性には、慢性疾患のリスクがある患者の特定支援、エビデンスに基づくベスト・プラクティスの開発、ケアプランの遵守における潜在的障害の発見が挙げられます。データを活用することで、臨床医はさまざまな事態が起こる前に先手を打つことができるため、患者の症状が深刻になる前に予防的ケアを提供できます。
医療における予測分析の例
現在、医療システムや医療提供者によって、予測分析にビッグデータ・プラットフォームと AI を活かすためのさまざまな方法が模索されています。このようなソリューションは、医療機関が、過去の出来事を学ぶためにデータを使用することから、今後起こり得る事態をより確実に予測するためにデータを使用する方向へと変化を促します。
重篤な症状に対する迅速な治療
Penn Medicine はインテルと提携して、病院にとって最も一般的でコストのかかる 2 つの問題である敗血症と心不全を対象に、この予測や防止に役立つ協調的データ・サイエンス・プラットフォームを構築しました。
この予測モデルにより、敗血症性ショックが発症する 30 時間前に (従来の方法では 2 時間前)、敗血性症の症状の約 85% (50% から上昇) を特定することができました。4 また、見逃されていた心不全患者の 20 〜 30% を特定することもできました。4 こういった取り組みにより、臨床医はいち早く治療を提供し、回復にかかる時間を短縮して、病院のリソースを節約することができました。
入院期間の予測
インテルと Cloudera は、大規模な病院グループが予測分析を使用して、入院期間に対する予測精度を高められるよう支援しました。インテル® Xeon® プロセッサーのクラスターに基づいたビッグデータ・プラットフォームにより、この病院グループは、非関連、非構造化、半構造化のデータを取り込むことができました。
より効率的な計画を立ててスタッフを配置できることで、病院グループは年間 1 億 2,000 万米ドル (患者 1 人あたり約 12,000 米ドル) を節約し、施設の利用率を 5% 高めたことに加え、年間 10,000 人の患者にサービスを提供することができます。5
再入院の削減
インテルと Cloudera の別の取り組みとして、社会経済的データ、電子カルテ、予測分析を使用して、病院グループが診断時に再入院リスクの高い患者を特定できるようにしました。これにより、病院のスタッフは再入院率を下げるために追加の医療を提供することができます。
インテル® Xeon® プロセッサーを搭載したビッグデータ・プラットフォームにより、病院グループは患者の再入院の発生回数を 6,000 回削減し、メディケア・ペナルティーになり得る 400 万米ドルを回避して、年間約 7,200 万米ドルの医療サービス費用を節約できました。6
AI の可能性を探る
インテルは、AI を使用して医療システムや医療提供者が病気に立ち向かい、患者に合わせた治療法を提供することに熱意をもって取り組んでいます。AI を中心としたがん検診に関するコンペティションのスポンサーシップから、数多くのインテル® テクノロジーを搭載した健康やライフサイエンスにおける AI ソリューションまで、インテルは医療機関が予測分析を導入するにあたって適切なテクノロジーを見つけられるようお手伝いします。
体調不調のリスクのある患者の特定
Sharp HealthCare では、インテルと Cloudera のテクノロジーを使用して、予測臨床分析モデルを導入しました。このモデルは、機械学習と病院の電子カルテシステムのデータを使用して、今後 1 時間以内に緊急対応チームの介入を必要とするリスクのある患者を特定します。
1 時間以内に事態が発生する可能性をこのモデルで予測したところ 80% の精度が認められました。7 これにより、緊急対応チームの先を見越した介入、ケアの品質とコストの改善、リソースの利用率の向上を図ることができました。
インテルの予測分析による臨床医のサポート
AI とビッグデータ・プラットフォームの基盤を提供することで、インテルとパートナーのエコシステムは、医療提供者が手付かずのままになっている膨大な量の患者データや健康データを活用できるよう支援します。予測分析ソリューションにより得られる結果は、医療提供者が患者の安全を改善し、運用効率を高め、そして何より重要といえる患者の転帰の向上に貢献します。