変化する都市を検知する

都市は IoT を活用する動きを見せています。

要点

  • ロンドンとダブリンでは、生活しやすく将来への備えが万全な都市を目指す施策の一環として、ネットワーク化されたセンサーを導入している

  • これらの都市は世界に先駆けて、都市全域で IoT システムを効率的に導入する方法を模索している

  • スマートシティー・プロジェクトは、センサーの用途や IoT の持つ力などを深く理解するための指南役となっている

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都市の人口が増えるにつれて、その対策として最新の分析方法やコネクテッド・デバイスを活用する都市が増えています。インテルと密接に連携している世界の大都市の数は数十に及びます。ここでは、スマートシティーへの移行を先導するいくつかの都市の IoT に関するインサイトをご紹介します。

ダンカン・ウィルソンは、週に 4 日のペースで、白いオートバイ「ドゥカティ 899」に乗って 8 マイルに及ぶロンドンの渋滞を走り抜け、インペリアル・カレッジ内のオフィスに通勤しています。ハイドパークを過ぎるころ、ショッピングモール Victoria Gate 内のユーティリティー・ボックスに取り付けられたセンサーが、大気中の窒素酸化物、硫黄酸化物、粒子状物質 (PM) のレベルを検出します。ロンドンには各所にこのような検出器が約 80 台設置されており、最も大気汚染が進んでいる地区や渋滞が頻発する地区を特定したり、スモッグ対策を検討するために使われています。

「渋滞多発地点は、すべて大きな交差点や交通量の多い道路の周辺です」と、ウィルソン。彼は「Sensing London」と名付けられたプロジェクトを率いるインテルのリサーチ・ディレクターです。「公園をモニターするのは、このグリーンスペースがしっかり保護されていることを確認するためです」

Sensing London は、インテル・コラボレーション調査研究室 (ICRI) の持続可能なコネクテッド・シティー・チームとインペリアル・カレッジ、ユニヴァーシティー・カレッジ、Future Cities Catapult、ロンドン市議会メンバーが連携して取り組んでいるプロジェクトです。Sensing London 以外にも、気候変動や資源枯渇などの問題の対策にモノのインターネットを活用しようという取り組みが世界各地に数多く広がっています。このような取り組みの種類は、草の根レベルの活動から、産官学と市民グループが連携した大規模プロジェクトにいたるまで多岐にわたります。

例えばバルセロナでは、ゴミがいっぱいになったら収集サービスに自動的に通知するセンサーをゴミ集積場に取り付ける取り組みが進んでいます。サンディエゴ港では、HVAC (暖房、換気、空調) システムにセンサーを取り付けて省エネを促進するとともに州の規制強化に備えています。

このようなスマートシティー・プロジェクトの間で共通しているのは、「データそのものやデータから抽出されるインサイトが、より良いアイデア、判断、結果につながる」という考え方です。

1 カ月でプログラムを立ち上げました。

インテルのリサーチ・ディレクター、ダンカン・ウィルソン

London Air

607 平方マイルの面積を持つロンドンでは、乗用車とトラック合わせて 250 万台近くの自動車が道路を走行しています。自動車の 30% はディーゼル車で、無鉛ガソリンで走行する車よりも二酸化窒素と粒子状物質を大量に排出します。ロンドンで最近測定された大気汚染物質のなかでこの 2 つの物質の値は、北京での汚染レベルよりも高いことが分かりました。また、2010 年にロンドンで若くして死亡した 9,500 名の人の死因にも関連しています。

ロンドン全域の大気をモニターすることは、現時点では不可能です。そこで、Sensing London はハイドパーク以外に 3 つの重点区域にターゲットを絞り込むことにしました。1 つ目の重点区域は、タワーブリッジです。この橋は船が通過できるように 1 日に 3 回橋桁が跳ね上がるので、そのたびに自動車が数分間アイドリング状態で待たなくてはなりません。2 つ目は、エレファント&キャッスルで、窒素酸化物を吸収する塗料の実験が行われている地区です。3 つ目は、インフィールド特別区の北部で、2 本の古くて交通量の非常に多い道路に挟まれている地域です。

インフィールド特別区については、「1 カ月でプログラムを立ち上げました。センサーが収集するデータは、システム・オン・チップ・ゲートウェイがその場でリアルタイムに処理します。その後、処理済みのデータはこのゲートウェイによってクラウドに送信されます。ゲートウェイは、センサーが収集した単なる数字を、意味のある判断材料としての情報に変換する役割を担っており、柔軟性と拡張性に優れたデータ処理インフラストラクチャーです」

もちろん、いろいろと難しい問題もあります。センサーやそれを覆うケースの設置位置、気温、湿度、風など、多くの要素がデータの精度を下げる要因になります。

それを補正するために、ICRI のチームは、ロンドン市内にある 3 カ所の高精度な大気質測定局の値を参照してセンサーをキャリブレーションしています。ゲートウェイには数値を合わせるためのアルゴリズムが組み込まれています。

「電気化学的なセンサー自体の特性についてもたくさん学んだので、データ処理に使うアルゴリズムも改良し続けています」とウィルソン。「データをそのままクラウドに送信するのも IoT の方法の 1 つとして考えられますが、私たちはデータを収集したその場で処理し、処理済みのデータをクラウドに送信する方法も検討しています。

収集データからノイズをカットすることの利点は、クラウドが意味のないデータであふれかえる状態を防げる点です」 意味のないデータは、ゲートウェイのプロセッサーによってカットされます。

Dublin Flooding

ロンドンから北西に約 300 マイルの位置にあるダブリンの市議会はインテルとこの 4 月に契約を結び、ゲートウェイ・センサーを市全域に張り巡らせて、ロンドンと似たような産官学共同の IoT プロジェクトを進めることにしました。

「当初、かなりの時間を割いて内部の運営スタッフに何を重点分野にすべきか尋ねました」と、プロジェクト立ち上げ当時を振り返るのはダブリン市議会の Smart Cities コーディネーターを務めるジェイミー・カデン氏です。「結局、洪水対策に焦点を絞ることに落ち着きました」

アイルランドの気温は暖かい北大西洋海流のおかげで穏やかに保たれています。ビクトリア朝時代のある詩人はこの地に降る雨を「アイルランド的なもてなしのように温かく、アイルランド人の微笑みのように柔らか」と称えました。

ここでの気候変動とは、1890年に比べて現在アイルランドの大気中に含まれる水分が約 4% 増えたことを意味しています。これは、アイルランド東部全体に大参事をもたらす「モンスターレイン」の一因となっています。

「大雨による洪水で、街路が川に変貌します」と説明するのはインテルのデイビッド・プレンダギャスト博士。人類学者でもある彼は、Dublin IoT Demonstrator プロジェクトのリーダーを務めています。大雨によって「川の水が氾濫したり、排水システムに過度の負担がかかったり、アパートの地下室への浸水が発生することもあります」

アイルランド防火・防災管理局によると、2012 年 12 月から 2013 年 1 月の期間だけで、ダブリン市の洪水による経済損失は 6,100 万ユーロ (8,500 万米ドル) に上りました。

現在、ダブリン市は Smart Cities プログラムを立ち上げて、洪水対策を進めています。

「(市の) エンジニアたちの多くがすでにイノベーションにとても積極的でした。雨量と川の水位をモニターするセンサーを使った新しいソリューションを探し出し、試していました」とカデン氏は言います。しかし、そのような試みも部門間の連携が取れていない状態でした。「川の管理の担当者と排水管理の担当者の間で協力する手段が非常に限られていたのです」

今後 1 年間かけて、インテルはダブリン市の IoT システム構築を支援していきます。雨、川、排水システムにできるだけたくさんのセンサーを設置し、データを収集する予定です。

プレンダギャスト博士によると、インテルは市内の重点地区に雨量計と気象観測所を設置する予定です。それだけでなく、川の状態をモニターするブイや低出力の超音波水位センサーなどの実験的なセンサーも取り付けて、高潮を観測したりモンスターレインの襲来に敏感な反応を示す川の情報をリアルタイムで提供していきます。

エンジニアからデータ管理者にいたるまで、さまざまな分野のエキスパートが地元のカレッジや企業と協力しあって検出装置を開発したり収集データを集約しようと試みており、最終的には洪水モニタリング計画を策定して実行する予定となっています。

「こうしたデータを収集しても効果的に活用しなければ意味がありません」と言うカデン氏。豪雨が発生する前に、職員に下水道を開放したり車を移動するように警告し、アパートの地下室に住んでいる人に通知するようなセンサーベースのシステムを構築したいと考えています。

スマートシティーの将来

ダブリンとロンドンでは大規模な取り組みによって IoT インフラストラクチャーの構築が大きく前進していますが、ニューヨーク大学の交通政策マネジメント・ルーディン・センターのシニア・リサーチ・フェローで『Smart Cities』の著書でもあるアンソニー・タウンゼンド氏は、こうしたトップダウン式の取り組みはまだ黎明期にあると見ています。

彼の予想では、都市のインフラストラクチャーは最終的には市民主導のプロジェクトをサポートするようになります。例えば、政府代表者や教育、保育サービスへのアクセスは「ポケットや壁の中にある小さなスマートデバイスに置き換えられる」とタウンゼンド氏は言います。

そのような未来図を否定する理由は見当たりません。スマートフォンが広く普及するにつれて、人々は自分の手元でデータ処理をするパワーを手に入れたのですから。

「複雑さは増す一方ですが、それは良いことだと思います。世の中を簡潔にするだけが大切なわけではないでしょう」と彼は言います。「社交活動と同じことです。つきあいが広がれば 楽しいことも増えますよね?」