2030年の銀行の姿: 新しいテクノロジーが金融の未来を変革

金融サービス業界 (FSI) の企業は、AI や共有台帳などの進化するテクノロジーによって一変すると予想されます。

重要ポイント

  • 大規模なデジタル・ディスラプション (デジタル化による破壊的変革) は、あらゆる業界でビジネスのルールブックを書き換えつつあります。

  • 金融業界は、イノベーションの妨げとなるレガシー・インフラストラクチャーに依存していることが主な原因で、新しいテクノロジーの採用が遅れています。

  • FSI 企業は、かつてない変化を遂げると予想される業界での競争を可能にするためのデジタル戦略を策定するために、インフラストラクチャーを更新し、2030年を見据える必要があります。

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デジタル・ディスラプションがビジネスのルールブックを完全に書き換えつつある中、現状に留まっている企業は俊敏なライバルに追いつくのに苦労することになります。新しいテクノロジーは、医療、エンターテインメントから、輸送、製造に至るまで、あらゆる業界の企業を変革しつつあります。インテルでは、ビジネス破壊のこの極限状態を「変化の旋風」と呼んでいます。

インテルのビジネス・ソリューションのディレクターを務める Jim Henrys は、進化するテクノロジーが大手多国籍企業の独占を破壊した理由について、次のように説明しています。「テクノロジーの民主化が、ディスラプションの主要推進要因です。クラウド / モバイル・テクノロジーがすでにビジネスモデルを覆し、規模に関わらず、スタートアップが業界全体を破壊する力を持つようになりましたが、さらにテクノロジーのかつてない変化が目前に迫っています。つまり、これはまだ始まったばかりなのです」

レガシー・インフラストラクチャーを使用している組織はイノベーションに苦戦し、古いハードウェアの稼働を維持するために不必要な予算を無駄にしています。「あらゆるものが変化し続け、つながっている世界において、今日犯す最大の過ちは、いつまでも優位に立っているつもりになって現状に留まることです」と Henrys は警告します。企業は、IT インフラストラクチャーを更新する必要があるだけでなく、全く新しいビジネスモデルを開発し、デジタル環境でそれらを発展させることができるトリプル・ボトム・ライン (TBL) 戦略を策定することも必要となります。

トリプル・ボトム・ラインは、ビジネスの成功の評価を、経済的成果、環境的成果、社会的成果の 3 つの要素に分類する戦略的枠組みです。資金は必然的に推進要因ですが、社会的および環境的責任を担うことは、デジタル時代の企業の収益に不可欠となります。さらに、正しい職場文化を構築し、従業員に最もスマートな働き方を提供して人材を育成するために、企業は職場も改革しなければなりません。

インテルのデジタル・トランスフォーメーション・オフィスの GM を務める Andrew Moore は、「多くの組織は、従業員の創造力とイノベーションを育んでいると信じて自身をごまかしています」と語ります。「実際には、世界のほとんどの大企業で、従業員はアイデアを提案することにためらいを感じていることも少なくありません。通常、完璧なプレゼンテーションと詳細な ROI の計算で裏付けられていない限り、上級幹部がアイデアを採用しないことが分かっているからです。これは、リスクを冒して急進的なことにチャレンジするのを恐れない俊敏な競合他社に追い抜かれる原因となります」

常に一歩先を進み続けるには、企業はディラプトされる側ではなく、ディスラプトする側にいなければなりません。革新的なテクノロジーはすでに多くの分野を根本的に変革していますが、金融サービス業界 (FSI) は適応が遅れていることで有名です。古いインフラストラクチャーによって部分的に妨げられ、他のほとんどの分野よりも厳しい規制の対象となっている金融業界は、イノベーションのペースが加速し続ける中、遅れを取り戻すためにやるべきことがあります。

Intel Corporation の EMEA 金融サービス業界ソリューションの責任者である Gerald Grattoni によると、金融業界のデジタル・トランスフォーメーションを確実に成功させるために、FSI 企業が対処する必要がある 4 つの重要なトピックがあります。

1.サイバー・セキュリティー

サイバー・セキュリティーの問題は、あらゆる業界のデジタル時代の企業とって「当然のこと」になっています。銀行は個人データと金融取引に関するデータが安全であることを保証することで、コンシューマーの高いレベルの信頼を維持することが不可欠です。多要素認証などの新しいシステムは、顧客データのセキュリティーを確保する上で大きな役割を果たします。

2.コンプライアンス規制

「この 10 年の間に、規制がますます厳しくなっているため、これは業界の最優先事項となっています」と Grattoni は話します。「企業は、関連する多大な運用コストを、新たな価値とビジネスを推進できるモデルに変えるという課題に直面しています」 人工知能などの新しいテクノロジーによって、銀行がビッグデータをより有効に活用することが可能になるにつれて、コンプライアンスは進化を続けていきます。

3.カスタマー・エンゲージメントの進化

Grattoni は、「顧客はこれまで以上にテクノロジーに精通し、金融サービスでの体験に対してさまざまな期待を抱くようになっており、銀行は適応を迫られています」と語ります。さまざまなデバイスでの一貫した体験が求められているだけでなく、リアルタイムのデジタル決済に対するニーズもあります。このどちらも、基盤となるテクノロジーの更新を必要とします。特に、若い世代は、Netflix*、Spotify*、Facebook* など非金融のほかのプラットフォームで得られるものと同じ利便性を求めています。そのため、顧客の共感が必要不可欠です。

4.市場への新規参入者

「規制当局が市場を開放したことで競争がさらに促進され、新規参入者が大手銀行から市場シェアを獲得しつつあります」と Grattoni は話します。スマート・テクノロジーを使用して、オンライン送金サービスやロボット・アドバイザーなどの新しいサービスを導入するスタートアップ企業が増えていることから、従来型の銀行は顧客ロイヤルティーに対する不安を募らせています。しかし、競争だけがすべてではありません。フィンテック・スタートアップとの新たな協業体制の構築は、FSI のデジタル・トランスフォーメーションの重要な部分になります。

変革するためには、企業は IT 戦略を検討して、しっかりとした計画を立てる必要があります。ただし、これまでは 3 年先までの計画を立てるのが普通だったかもしれませんが、現在このアプローチを使用すると、重要な問題点が見落とされたままになります。Grattoni は、長期戦略を策定する際にすべての企業が考慮すべき 3 つの重要な計画対象期間 (2018年、2022年、2030年) について概説しています。

2018年: 来年の展望

2018年に向けて、インテルは、ソーシャル、モバイル、分析、クラウドで組織が革新的なビジネス成果を実現できるよう支援するために、戦略ワークショップを使用して、変化の旋風の 6 つの柱を適用します。インテルは、デジタル時代に向けたビジネスの再構築を支援するために、スペインのグローバル銀行 BBVA をはじめとする多数の金融機関とすでに提携しています。「インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーの新しい機能により、プラットフォームの俊敏性、スケーラビリティー、パフォーマンスとセキュリティーを向上させることができます」と、BBVA のインフラストラクチャー、サービス & オープンシステムのグローバル責任者を務める Jose María Ruesta 氏は話します。「これにより、コグニティブ・テクノロジーや人工知能などを基盤とする、最適なパフォーマンスを備えた新しいソリューションの導入が可能になります」

オーストラリア・コモンウェルス銀行 (CBA) も、インテル® テクノロジーをオープンソース・ソフトウェアとともに使用して、革新的なハイブリッド・クラウド戦略とソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャーを導入することで、コストを削減しながら、分析ワークロードをより効果的に管理および拡大できるようになりました。CBA のエンジニアリング、分析および情報の責任者である Quentin Anderson 氏は、「ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャーにより、発注インフラストラクチャーのサイクルタイムを数カ月から数分に短縮できます」と説明します。

一方、スペインのリテールバンキングと保険業における大手金融グループの CaixaBank は、ビッグデータ分析を使用してサービスを向上させています。Oracle* の相互接続されたプラットフォームとインテル® ジーオン® プロセッサー・ファミリー搭載ハードウェアを使って、CaixaBank* は、クライアント・データを活用して、顧客のニーズを特定し、よりパーソナライズされた製品を提供するという新しいモデルを作成します。最高データ責任者の Luis Esteban Grifoll 氏は、「大きなセグメントになりつつあるミレニアル世代は、近いうちにデジタルデバイスしか使用しなくなると考えられるので、このようなクライアントに適した新しいモデルを見つける必要があります」と説明します。

2022年: 5 年後の予想

もう少し先を見据えて、AI、分散コンピューティング、IoT などのさまざまなディスラプティブ・テクノロジーが状況にどのような影響を与え、新しいビジネスモデルに拍車をかけるのかを検討することが重要です。Grattoni は、「これらのテクノロジーの一部はすでに早期導入されていますが、今後数年間で主流になっていくと見ています」と話します。オンライン小売やソーシャルメディアなどの比較的「新しい」分野は、収集した顧客データの活用に精通していますが、銀行業界では、保有する価値あるデータを活用した業務の強化が遅れています。

AI とマシンラーニングは、先進的なデジタルビジネス戦略の中核となります。これらを使用することで、支払いプロセスから非効率性を取り除き、業務を合理化できるだけでなく、カスタマー・インターフェイスとパーソナライゼーションを大幅に向上できます。「ビッグデータの出現、大幅に改善されたハードウェアの進化、よりスマートなアルゴリズムの 3 つが一体となっています。この 3 つをつなげば、AI を加速するための理想のレシピになります」と Grattoni は語ります。

インテルは、AI に焦点を置いたインテル® Movidius™ Myriad™ X ビジョン・プロセシング・ユニット (VPU)、「人間のような感覚」をデバイスに組み込むインテル® RealSense™ テクノロジー、脳の機能を模倣する自己学習型ニューロモルフィック・チップ (開発コード名: Loihi) など、この分野ですでに多くの開発を行っています。

2030年: 未来の姿

10 年以上先に目を向けると、新しいテクノロジーがさらに発展し、FSI は完全に変革されると予想されます。AI とマシンラーニングが FSI 企業に不可欠なものとなり、機械が意思決定の責任を担うケースが増えるにつれて信頼が転換点に達します。また、AI とロボットの進歩により、顧客はテクノロジーとはるかに自然にやり取りできるようになる可能性もあります。将来の金融業界は、IoT 統合や、暗号通貨ビットコインの中核を担うブロックチェーンのような共有台帳のメリットも享受できるようになります。

共有台帳とは、所有権を管理し、取引レコードを改ざんできない状態で永続的に記録するデータベースです。台帳はネットワーク自体によって検証されるため、これを監視するための中央集権機関は不要です。共有台帳が提供する明白な監査証跡は、不正検出や徴税など、FSI 内の多くの分野に革命をもたらします。

さらに、将来の銀行は、銀行という認識から大きくかけ離れたものになるでしょう。「銀行は、銀行のように見えるだけです。それは安全な要塞のようであり、内部には活気があまりなく、活動もほとんどありません」と Grattoni。彼がボストンで通常とは異なる銀行支店をたまたま見つけるまで、少なくともそれが彼の認識でした。テーブルでノートブック PC に向かう顧客、コーヒーを提供するバリスタ、スポーツチャンネルを映し出す大型画面など、その支店は活気に溢れていました。「瀕死の支店という概念は完全に覆されました」と Grattoni は説明します。「重要なのは顧客体験であり、現在行われていることを進化させる方法がいくつかあります」

Grattoni によると、2030年以降、銀行には 2 つの方向性が考えられます。中核となる取引プラットフォームになるか、完全な機能を備えたライフスタイル企業になるかのいずれかであると彼は考えています。「最初の例では、銀行は支店、ウェブサイト、アプリ、販売員など顧客との接点インフラストラクチャーを排除してインフラストラクチャー・プロバイダーになり、取引サービス、資金調達と融資、規制とコンプライアンスのあらゆる側面への対応に専念します」と Grattoni は説明します。「その後、他のコンシューマー向け企業がこのサービスを利用できるようにして、ユーザー向けフロントエンドを提供します」 組織は、ファイナンス商品を通常のビジネスモデルの一部として提供することも、福利厚生として従業員に提供することもできます。ただし、このモデルを成功させるには、オープン・スタンダードに基づくオープンソースのモジュール式テクノロジーが必要になります。

「もう 1 つの道筋は正反対です。銀行は保持しているデータを活用して、最もデータに精通しているウェブ企業よりも、顧客に関する優れた知見を獲得します」と Grattoni は語ります。「銀行が保持する取引データから、顧客のオンライン活動よりも、顧客の習慣についてより多くの知見が得られることはほぼ間違いありません」

この 2 つのシナリオの一部として発生すると考えられるもう 1 つの可能性は、中央データ管理者としての銀行です。KYC (本人確認) イニシアチブが進化してほぼ 100% の精度になれば、銀行が (政府や他の組織と共有される) 個人のコア・データ・プロファイルの責任者になる可能性があります。これを実現するには、データ・セキュリティーを最優先事項にする必要があります。

資本市場の平準化は、金融の将来に向けたもう 1 つの考えられるシナリオです。コネクテッド・デバイスと、非対称的な競争条件を公平にするために設定されたすぐに利用可能な市場データにより、投資銀行は有利な立場ではなくなる可能性があります。さらに、AI が予測分析に基づく意思決定によって投資のリスクを低減し、その結果として投資収益率が向上します。

まとめると、金融業界はデジタル環境への適応が遅れていますが、今後数年間でかつてない変化を遂げることが見込まれます。そのため、FSI 企業は準備を整えておかなければなりません。組織はレガシー・インフラストラクチャーを更新し、俊敏で先進的なビジネスモデルを可能にするマルチクラウド・テクノロジーに移行する必要があります。企業は今から 2030年を見据え、デジタル・トランスフォーメーションを成功させるためにすべての企業が答える必要のある 8 つの質問について検討する必要があります。「実際には、30 年前に行われた意思決定への対処に悪戦苦闘しています。2030年の戦略では、現在行う意思決定が重要となります」と Grattoni は警告しています。

* その他の社名、製品名などは、一般に各社の表示、商標または登録商標です。

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