熱管理
IC のプロセスが 90nm 以下になり、FPGA の集積度が向上するにつれて、電力の管理が重要になってきています。設計者は、市場が要求するすべての機能を低消費電力でどのように提供するかという問題を抱えています。 多くの FPGA デザインでは、電力は 3 番目または 4 番目に重要な問題とされてきましたが、今日の 90nm 以下のデザインではとても重要な検討事項です。デバイスの消費電力が増加するにつれて、発生する熱も増加します。この熱を放逸させ、動作温度を仕様の範囲内に維持する必要があります。
熱管理は、90nm Stratix® II デバイスにとって、重要なデザイン上の検討事項です。インテル® FPGA デバイスパッケージは、熱抵抗を最小限に抑えて、電力消費を最大限にするよう設計されています。アプリケーションによってはさらに多く電力を放逸するものもあり、このようなアプリケーションにはヒートシンクなどの外部熱対策が必要です。
放熱
デバイスから熱を放逸させる方法には、放射、伝導、および対流の 3 つがあります。PCB デザインでは、ヒートシンクを使用して熱放逸を改善しています。ヒートシンクの熱エネルギー伝送能力は、ヒートシンクと周囲空気間の熱抵抗が小さいことに起因します。熱抵抗は物質の熱放逸能力の尺度であり、熱放逸能力とは熱を異種媒体間の境界を越えて伝達する能力のことです。表面積が大きく空気循環(空気流)の良好なヒートシンクから最良の熱放逸が得られます。
ヒートシンクは、デバイスのジャンクション温度を規定推奨動作温度以下に維持するのに役立ちます。ヒートシンクを使用すると、デバイスからの熱がダイのジャンクションからケースに、ケースからヒートシンクに流れ、最後にヒートシンクから周囲に放出されます。目標はデバイス全体の熱抵抗を低減することなので、設計者は熱回路モデルと計算式を使用して熱抵抗を算出することによって、デバイスの温度管理のためにヒートシンクが必要かどうかを判断することができます。これらの熱回路モデルは、オームの法則を使用した抵抗回路に類似しています。図 1 に、ヒートシンク付きデバイスとヒートシンクなしデバイスの熱回路モデル、およびパッケージの上部を通る熱伝導パスも示します。
図 1.熱回路モデル。
表 1 は熱回路のパラメーターを定義します。デバイスの熱抵抗は、図 1 に示す熱回路モデルから算出された熱抵抗値の合計によって決まります。
表 1.熱回路のパラメーター
パラメーター |
名前 |
ユニット |
詳細 |
---|---|---|---|
ΘJA |
接合部から周囲空気までの熱抵抗 |
oC/W |
データシートに規定 |
ΘJC |
接合部からケースまでの熱抵抗 |
oC/W |
データシートに規定 |
ΘCS |
ケースからヒートシンクまでの熱抵抗 |
oC/W |
サーマル・インターフェイス・マテリアルの熱抵抗 |
ΘCA |
ケースから周囲空気までの熱抵抗 |
oC/W |
|
ΘSA |
ヒートシンクから周囲空気までの熱抵抗 |
oC/W |
ヒートシンク・メーカーによって規定 |
TJ |
接合温度 |
oC |
デバイスの推奨動作条件に基づいて規定された接合温度 |
TJMAX |
最大接合温度 |
oC |
デバイスの推奨動作条件に基づいて規定された最大接合温度 |
TA |
Ambient temperature |
oC |
コンポーネント周辺の局所周囲空気の温度 |
TS |
ヒートシンクの温度 |
oC |
|
TC |
デバイスケースの温度 |
oC |
|
P |
電源 |
W |
動作しているデバイスの合計消費電力。この見積り値を使用して、ヒートシンクを選択する。 |
熱抵抗
従来は有限要素モデルを使用してパッケージされたデバイスの熱抵抗を予測していました。 これは Stratix II デバイス・ハンドブックに記載されている熱抵抗の値とほぼ一致する値です。表 2 に、ヒートシンク付きデバイスとヒートシンクなしデバイスの熱抵抗計算式を示します。
表 2.デバイスの熱計算式
ヒートシンク使用の判断
設計者は、以下の計算式を使用して接合温度を算出することにより、ヒートシンクの必要性を判断することができます。
TJ = TA + P × Θ JA
算出された接合温度 (TJ) が規定最大許容接合温度 (TJMAX) を超える場合に追加のサーマル・ソリューション (ヒートシンク、エアフローの追加、またはその両方) が必要です。この場合、上記表 2 の計算式を修正すると、以下のようになります。
ΘJA = ΘJC + ΘCS + ΘSA = (TJMAX - TA) / P
ΘSA = (TJMAX - TA) / P - ΘJC - ΘCS
ヒートシンクの必要性の判断例
以下の手順は、ヒートシンクが必要かどうかを判断するために使用できる方法を示します。この例は、下記表 3 に示す条件でStratix II EP2S180F1508 デバイスを使用します。
表 3.動作条件
1.接合温度計算式を使用して、記載された動作条件での接合温度を計算します。TJ = TA + P × ΘJA = 50 + 20 × 4.7 = 144 °C
接合温度 144 °C は規定最大接合温度 85 °C より高いため、正しい動作を保証するために必ずヒートシンクが必要です。
2.周囲の空気までの計算式 (および一般的なサーマル・インターフェイス・マテリアルの 0.1 °C/W の ΘCS) を使用し、必要とされるヒートシンクから周囲の空気までの熱抵抗を計算します。
3.熱抵抗要求値 1.52 °C/W に適合するヒートシンクを選択します。ヒートシンクは物理的にデバイスに適合するものでなければなりません。インテル® FPGA では数社のヒートシンクを確認・検討しており、この例では Alpha Novatech 製ヒートシンク (Z40-12.7B) を参照しています。
400 feet / 分の空気流量での Z40-12.7B の熱抵抗は1.35 °C/W です。したがって、公開されている熱抵抗 ΘSA は要求値の 1.52 °C/W 未満なので、このヒートシンクは有効だと考えられます。
このヒートシンクを使用して、再検証すると次のようになります。
81.6 °C は指定された最高接合温度 85 °C より低いため、Z40-12.7B ヒートシンク・ソリューションが有効であることが検証されました。
ヒートシンクの評価
ヒートシンク・サプライヤーから提供されるヒートシンクの熱抵抗値が正確であることが、適切なヒートシンクを選択する際に重要です。インテル FPGA は、有限要素モデルと実測値の両方を使用して、ベンダー提供のデータが正確かどうかを検証しています。
有限要素モデル
有限要素モデルは、ヒートシンクをパッケージに含むアプリケーション例を示します。インテル® FPGA は、4 つのインテル® FPGA デバイスを使用して、Alpha Novatech 製ヒートシンク 2 つの熱抵抗を検証しました。表 4 は、モデルで予測した熱抵抗値と、サプライヤーのデータシートから算出された熱抵抗値がほぼ一致することを示しています。
表 4.ΘJA (400 feet/ 分の空気流量)
測定
熱抵抗は JEDEC Standard JESD51-6 に準拠して測定されます。インテル® FPGA は、次の Alpha Novatech 製ヒートシンク UB35-25B、UB35-20B、Z35-12.7B、Z40-6.3B の熱抵抗を測定しています。これらのヒートシンクの詳細は Alpha Novatech ウェブサイト (https://www.alphanovatech.com/en/index.html) でご覧ください。上記ヒートシンクには、サーマルテープ(Chomerics T412)があらかじめ貼付されています。
ヒートシンクを測定するために表 5 に示すインテル FPGA の 4 つのデバイスが使 用されます。実測値とサプライヤーのデータシートに記載されている熱抵抗値との間に高い相関性が見られました。
表 5. ΘJA (400 feet/ 分の空気流量)
次の図 2 のグラフでは空気流量が ΘJA に与える影響を示しています。
図 2.ΘJA の空気流量の影響。
サーマル・インターフェイス・マテリアル
サーマル・インターフェイス・マテリアル(TIM)は、ヒートシンクをパッケージ表面に取り付けるのに使用される媒体です。TIMは、パッケージからヒートシンクまで、最小となる熱抵抗のパスを提供する働きをします。以下では、TIMについて説明します。
グリース
ヒートシンクをパッケージに接着するのに使用されるグリースは、シリコンオイルまたは炭化水素オイルで、各種充填剤を含有しています。グリースは、各種マテリアルのうち最も古くから使用されており、ヒートシンクを取り付けるのに最も広く使用されています。
表 6.グリース
ゲル
ゲルは、最近開発されたTIMです。ゲルはグリースと同様に塗布されると、硬化して部分的に架橋構造になります。 このためポンプアウトの問題が解消されます。
表 7.ゲル
伝熱性接着剤
一般的な伝熱性接着剤は、充填剤を含有する、エポキシまたはシリコンベースの調合物で、優れた接着力を持っています。
表 8.伝熱性接着剤
サーマルテープ
サーマルテープは、ポリイミドフィルム、ファイバーグラス・マット、アルミニウム箔などの支持基材上に充填剤入り感圧接着剤(PSA)を塗布してコーティングしたものです。
表 9.サーマルテープ
エラストマー・パッド
エラストマー・パッドは、扱いやすい固体状の重合シリコンゴムです。パッドの標準的な厚さは0.25 mm で、大部分のパッドにはガラス繊維織物が組み込まれていて扱いやすくなっています。 さらにこのパッドは、グリースと同様に無機充填剤を含有しています。 エラストマー・パッドは、アプリケーションに必要な正確な形状にダイカットされて供給されます。
表 10.エラストマー・パッド
相変化物質
相変化物質は、通常 50 ~ 80 °C で融解する、低温熱可塑性接着剤(ワックスが主流)です。動作温度が融点を超えると、相変化物質は接着剤としての効力を失い、機械的なサポートが必要になります。 このため、相変化物質は常に約 300 kPa を加圧するクランプと一緒に使用されます。
表 11.相変化物質
ヒートシンクのベンダー
以下はヒートシンクのベンダーのリストです:
- Alpha Novatech (www.alphanovatech.com)
- Malico Inc. (www.malico.com.tw)
- Aavid Thermalloy (www.aavidthermalloy.com)
- Wakefield Thermal Solutions (www.wakefield.com)
- Radian Heatsinks (www.radianheatsinks.com)
- Cool Innovations (www.coolinnovations.com)
- Heat Technology, Inc. (www.heattechnologiesinc.com)
サーマル・インターフェイス・マテリアルのベンダー
以下はサーマル・インターフェイス・マテリアルのベンダーのリストです:
- Shin-Etsu MicroSi (www.microsi.com)
- Lord Corporation (www.lord.com)
- Thermagon Inc. (www.thermagon.com)
- Chomerics (www.chomerics.com)
- Henkel (www.henkel-adhesives.com)