仮想化とオープン化がカギを握るRANの未来

デバイスと同様の手軽さで5Gネットワーク・インフラストラクチャーをアップグレードできる未来を見据えたモバイル・ネットワーク

デジタル革命の進展に伴い、モバイルデータおよびサービスに対するグローバルな要求は急激に増加しています。スマートフォンは、私たちの日常生活に欠かせないものとなっています。写真の撮影、ニュースやソーシャルメディアの最新情報の更新、ライドシェアといったさまざまなサービスの利用、ゲームをしたり、もちろん時には電話をかけたりすることもあります。さらに、ソフトウェアと「アプリストア」のおかげで、デバイスをアップグレードしなくても、スマートフォンが新しい革新的なユーザー体験を提供することに慣れてきました。私たちは、単にアプリをダウンロードしたり、アップデートしたりするのみです。

ネットワークインフラも同様にソフトウェアで定義することができるのでしょうか?では、日常的に使用するアプリやサービスとモバイルデバイスとを接続するワイヤレス・ネットワークも同様に、シンプルなソフトウェア更新だけでアップグレードできたらどうでしょうか。無謀な話のようにも聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。インテルはそのような未来に向けて、エコシステムを先導しています。

インテルはこのビジョンを実現するために、10年以上にわたってエコシステム・パートナーやお客様とともにネットワーク変革を牽引し続けています。業界をリードする4G/5Gネットワーク向けシリコン・プロバイダーとして、こうしたネットワークを「仮想化」し、ソフトウェア上で運用できるようにする変革と自由化をミッションとしてきました。これにより、通信サービス・プロバイダー(CoSP)のネットワークにプログラマビリティーとアップグレード機能を提供して、新機能や新サービスの実現を支援できるようになりました。これはスマートフォンやPCでのシンプルなソフトウェア更新やアプリのダウンロードと同じです。

そして、その成果がようやく実をむすびつつあります。

コアと呼ばれるネットワークの頭脳の部分を考えてみてください。10年以上前、コアを汎用プログラマブル・サーバ上のソフトウェアとして動作させる無線ネットワークはほとんど存在しませんでした。従来の常識では、コア・ネットワークのソフトウェア・デファインドは不可能とされていました。インテルは、このチャレンジに応え、ネットワークのコアを仮想化し、汎用サーバー上でソフトウェアとして動作させるためのサーバーとソフトウェアを設計しました。2020年には導入されるコア・ネットワーク全体の約半分を仮想ネットワーク・サーバーが占め、汎用チップ上で動作し、ソフトウェアのように機能しています。また、Dell'Oro社のレポートによると、このような仮想化コアの導入は、今年末1には90%を超えると予測されており、既知の仮想化ネットワーク・サーバーのほぼすべてがインテルのCPUで動作していると見込まれます。

無線アクセス・ネットワーク(RAN)は、ネットワークの残りの半分であり、実際、私たちが電話をかけたり、ウェブを閲覧したり、アプリケーションを使用する際に、私たちの携帯電話が直接通信するネットワークです。10年前のコア・ネットワークと同様に、RANをソフトウェアで定義することは非常に困難であるというのが従来の常識でした。現在、世界のほとんどの無線ネットワークは、一度導入すると変更できない固定機能のアプライアンスとしてRANを実装しています。インテルは、10年前にコア・ネットワークで推進したのと同じ変革をRANで推進することを目指します。お客様の共同投資から最先端技術まで、インテルは通信事業者やOEMが高速通信ネットワーキングに代わる新しい低コストの仮想化RANを市場に投入できるよう全力でサポートしています。

RAN を仮想化するのは容易なことではありません。RANは非常に要件の厳しいネットワーク・インフラストラクチャーであり、最も重要な「通話」が決して途切れさせないための基礎となるものです。RAN は、私たちが望む高速かつ低レイテンシーの接続性を提供する必要がありますが、緊急時には文字通り RAN に依存することになるため、故障することは絶対にあってはなりません。また、ワイヤレス・ネットワークの中で最も高価な部品でもあります。無線ネットワークを構築するための予算の半分以上は、RANに費やされます。RANの厳しい要件を満たすために必要な性能、信頼性、コスト効率を適切に組み合わせたハードウェアとソフトウェアを設計し提供することは、技術的にもコスト的にも容易なことではありません。

解決策は、柔軟性の向上と複雑さの解消

市場の新しい要件やユースケース、標準規格に対応するために、老朽化したハードウェアを置き換えることがコスト的に現実的ではない場合もあります。CoSPは、他のビジネスと同様に、投資から最大限の利益を得たいと考えます。そのためには、総所有コストの削減、消電力の実現、継続的なイノベーションのためのプラットフォーム構築が必要となります。

ソフトウェア・デファインド・インフラストラクチャーへのネットワークの近代化はまさにこれを実現するものです。アップグレードを容易にし、コンポーネント削減の要件を満たし、システムとボードの複雑性と部品コストを低減し、サプライチェーンの多様性を高めます。また、ソフトウェアによってプログラマビリティーが実装されることにより、ソフトウェアのアップグレードを通じてネットワークの革新と反復的な改善が可能になり、ハードウェア導入の投資収益率を大幅に向上させることができます。

従来、RANインフラストラクチャーはカスタム固定機能ハードウェア(いわゆるアプライアンス)上で動作していました。それは、ソフトウェアで定義されたものではなく、アップグレードは通常、高価で面倒なハードウェアのアップグレードを意味します。その理由は、RANアーキテクチャーの最下層であるレイヤー1(L1)、つまりスマートフォンからの無線信号をビットに変換し、私たちが享受する高速な5G接続を実現する部分は、その性能要件が非常に厳しいため、仮想化してソフトウェアで定義することはできない、という考え方があるためです。

ここで登場するのがインテルのアーキテクチャーです。インテルは、仮想化のメリットを実現するためには、RAN(デジタルデータを伝送するRANソフトウェア・スタックのレイヤー1まですべて)の仮想化が不可欠であると確信しています。L1を含むRANの厳しいニーズに対応するため、インテルは柔軟でプログラマブルな汎用チップをベースに、最も要求の厳しいタスクのためのアクセラレーションを統合したアーキテクチャーを構築しました。これにより、CoSPは妥協せずに完全仮想化RANを導入し、コアとRANの両方でエンドツーエンドにソフトウェア定義のネットワークを持つメリットを最大限に享受することができるようになりました。

これこそインテルがイノベーションを続け、通信ネットワークの高速化と効率化を図り、誰もが期待しているサービスの実現に取り組んでいる理由です。インテルの汎用ネットワーク・チップは絶えず進化しており、インテル® vRAN ブースト機能を内蔵した最新の第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーは、モバイル・ネットワーキング最大のコネクティビティー・ショーMWC Barcelona 2023で、大手の顧客企業とともに発表する予定となっています。

仮想化のバックボーンを支える汎用チップ

RANをL1まですべて完全に仮想化することで、俊敏性、柔軟性、拡張性を含め、技術面でもビジネス面でも計り知れないメリットがもたらされます。RANのあらゆる機能にわたって、AIのアルゴリズムなど新たなイノベーション技術をサポートし、ネットワークを進化させて、これまで以上に多くの機能を最適なコストで提供できるようになります。これらのメリットの中には直接気づきにくいものもありますが、もしこの記事をモバイルデバイスで読んでいるのであれば、インテルのテクノロジー上で動作する仮想化ネットワークインフラに接続されている可能性が高いでしょう。

CoSPはダイナミックな電力管理やネットワーク機能の再配分を容易に実装できるようになります。ネットワーク運用障害が発生したり、システムのアップグレードを行う際にも、技術者を現場に派遣する必要なく、ネットワーク・ワークロードを別のサーバーに移動することで対処できます。インテルの汎用チップを使用することで、低負荷時や無負荷時、コアをオフにして消費電力を削減することが簡単に実現できます。

これに対し、L1アクセラレーター・カードを搭載している場合、既存のネットワークを再構成して新しいRANのテクノロジーやサービスに対応するには、膨大なコストが発生しかねません。新しいハードウェアと付随するコストが必要となり、最終的には、これらのデバイスを使用して製品を構築することが可能な人材不足などにも影響される可能性あります。

L1処理の大部分はカスタムチップに完全にオフロードされるので、RANスタックのL1のカスタムソフトウェアベースの機能は、独自のソフトウェア言語で実装(ほとんどの場合ハンド・コーディング)されています。また、L1アクセラレーター・カードではアプリケーションのコンパイル、デバッグ、ビルドのための専用ツールにも依存する形になります。

簡単に言えば、RANにカスタム・シリコンを搭載しているということは、仮想化されていないことを意味します。

汎用チップではこのようなことはありません。ソフトウェア・ベースのアーキテクチャーでは、汎用ハードウェアを統合し最大限に活用するために、ソフトウェアは標準のオープン・プログラミング言語で記述されており、共通のコンパイル、デバッグ、ビルドツールを利用します。このため、その利点は、ある世代のチップ向けに作成されたソフトウェアを後継の複数世代で再利用可能でる事に加えて、世代間の移植が容易なため、事業者はRANソフトウェアを共通の仮想化プラットフォーム上に統合することができるのです。

言い換えれば、一度記述してしまえば、どこにでも導入可能です。世界中にデータ接続性を提供する業界のリーダーたちは、汎用チップの採用が、彼らの課題とニーズを満たしていることに同意しています。

5Gインフラへの新しいアプローチ

ハードウェアとソフトウェアの真の分離により、CoSPはクラス最高のハードウェアとソフトウェア・コンポーネントを異なるベンダーから購入することができ、非常に細かなレベルでベンダーを選択することが可能になります。このような選択肢を嫌う人はいないでしょう。

インテル® vRAN ブースト内蔵の第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーは、まさに名前のとおり、プログラマブル・インフラストラクチャーを提供し、カスタムのL1アクセラレーター・カードを不要にすることで、ネットワークをブースト(高速化)します。この新しいチップによって、vRANアクセラレーションがインテル® Xeon®システム・オン・チップに直接統合されました。このチップはクラウド対応の仮想RANへの実装を想定してネイティブ設計されており、同じ消費電力枠内で最大2倍の容量2および統合アクセラレーションによる20%の電力削減3を実現し、CoSPが求めるパフォーマンス、スケーリング、電力効率といった重要なニーズに対応します。

インテルが統合型アクセラレーションのアプローチを選択した理由は、インライン・アクセラレーションの利点とx86の柔軟性、プログラマビリティーを組み合わせることができ、柔軟性が不十分なハードウェア・アクセラレーターにL1全体を詰め込むソリューションよりも好都合だからです。インテル® vRAN ブースト内蔵の第4世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーが市場に投入されれば、最も性能の高いカスタム専用L1アクセラレーター・カードに匹敵する、あるいはそれ以上の消費電力当たり性能を期待できると予想しています4

vRANが創る未来

何年もの研究開発、エコシステムとのコラボレーション、商用導入・展開、成功事例からの教訓、そしてお客様からのフィードバックによって分かったことは、ネットワークはソフトウェアに移行する必要があるということです。これを実行するために、ワイヤレス業界はL1を仮想化するソリューションを必要としています。

そして、ネットワークがソフトウェア・デファインドへの長い変革を続ける中、インテルの vRAN 製品と FlexRAN リファレンス・ソフトウェアはこの瞬間を満たすように進化してきました。インテルは、固定機能のハードウェアで構築されたインフラから、インテルの汎用プロセッサーを搭載した市販の商用ハードウェアで動作する、完全に仮想化されたプラットフォームへと移行するこの変革を推進しつづけています。

インテルが提供するのは、将来有望なロードマップを持った市場投入に先んじたソリューションであり、すぐに導入できるソリューションであり、この信頼はCoSPに広く浸透しています。インテルが今のソリューションだけでなく、さらに進化を続けていると理解しているからこそ、CoSPは仮想化を採用し、ますます多様化する「電話」の使い方に対応していくことができます。これこそ世界中の商用vRANネットワークのほぼ全てがインテル・アーキテクチャー上で動作している理由です5

詳細情報:RANスタックのL1を仮想化する利点について、詳しくはインテルのホワイトペーパー(英語)を参照してください。

Sachin Katti インテルコーポレーション、シニアバイスプレジデント 兼 ジェネラル マネージャー、ネットワークおよびエッジグループ

1 Dell'Oro report published in Jan. 2023, "Mobile Core Network & Multi-Access Edge Computing Quarterly Report" + Intel internal analysis
2 Estimated as of 8/30/2022 based on 4th Generation Intel® Xeon® Scalable processor architecture improvements vs. 3rd Generation Intel® Xeon® Scalable processor at similar core count, socket power, and frequency on a test scenario using FlexRAN™ software. Results may vary. Performance varies by use, configuration, and other factors. Learn more at www.Intel.com/PerformanceIndex
3 Estimated as of 08/30/2022 based on scenario design power (SDP) analysis on pre-production 4th Generation Intel® Xeon® Scalable processor with Intel® vRAN Boost (integrated vRAN acceleration) and pre-production 4th Generation Intel® Xeon® Scalable processor at the same core count and frequency with an external vRAN accelerator card. Performance and power vary by use, configuration, and other factors. Learn more at www.Intel.com/PerformanceIndex
4 Performance/power projections are based on Intel estimates and simulations as of October 2022.
5 Dell'Oro report published in Jan. 2023, "Mobile RAN Five-year Forecast Report 2023-2027 Vol 22 No.1" + Intel internal analysis