AI 向け GPU とは
AI 向け GPU は、大量のデータを同時に処理する際にシステムのパフォーマンスを向上させるよう設計された強力な処理ユニットです。
そのアーキテクチャーは並列処理という計算方式に最適化されており、AI やマシンラーニング、科学シミュレーション、ゲームのグラフィックスのレンダリングなど要求の厳しいアプリケーションで効果を発揮します。
数百あるいは数万ものコア (処理ユニット) で構成される GPU は、その独自の並列構造により、多くの計算を同時に高速かつ効率的に実行できます。そのため GPU は多くの高度な AI ユースケースに不可欠なハードウェアと考えられています。
AI アルゴリズムが機能するには、膨大な数の行列乗算とベクトル演算を実行する必要があります。こういった演算は、特に計算数が多いとコンピューター・システムのパフォーマンス性能の上限を超えてしまうことがあります。
多くの場合、こういった処理の高速化に必要な追加リソースを提供するために GPU が使用されています。例えば、ハードウェア構成に GPU を加えることで、CPU (中央演算装置) 単独では処理に数日~数週間かかる大規模なニューラル・ネットワークのトレーニングに要する時間を短縮できます。すなわち、GPU は AI 処理を大幅に高速化すると言えます。
AI 向け GPU の役割
GPU は、高速な演算性能を発揮できます。そのため、多くの種類のディープラーニング・モデルなどの大規模で複雑な AI モデルの処理では、多くの場合 GPU のほうが優れています。一方で、より小規模のモデルを使用し、比較的少ないリソースで済む AI アプリケーションでは GPU では過剰となる可能性があります。実際に処理しているワークロードの規模と複雑さに応じて、適切なパフォーマンスを発揮するハードウェアを選択することが重要です。
大規模な AI ワークロード
大規模かつ複雑なモデルとは、具体的にどのようなものでしょうか。モデルが大規模と言われるのは、大量のデータセットでトレーニングされ、その結果多数のパラメーター (予測に必要な内部変数) が含まれるような場合です。一方、複雑さとは、モデルのアーキテクチャーの深さ、幅広さ、複雑性に加えて、多数の変数があるデータ、エラーを含むデータといった複雑なデータを処理するモデルの能力を指します。
例えば、大規模かつ複雑なディープラーニング・モデルは、深層強化学習 (ロボットへの歩行方法の教育、自律運転車)、高度なコンピューター・ビジョン・アプリケーション (衛星画像による森林伐採の監視)、高度な生成 AI (GenAI) (高解像度画像、ウィキペディア上の大規模言語モデル (LLM) のトレーニング) など、非常に膨大なデータを組み込んだ数多くの AI アプリケーションに使用されています。これらのアプリケーションでは、多くの場合 GPU による高速コンピューティングが必要になります。
GPU は、導入の複数のフェーズにわたって計算負荷の高いモデルを実行するのに効果的です。以下のプロセスを大幅に高速化できます。
- トレーニング - AI モデルにデータを供給する
- 微調整 - 特定のタスクで精度を高めるために AI モデルを強化する
- 推論 - 大量のコンピューティング・リソースが要求される場合に、トレーニングされた AI モデルを使用して新しいデータから結論を導く
小規模な AI ワークロード
GPU は、計算負荷の高い AI ワークロードの高速化に理想的ですが、小規模から中規模のワークロードには、その他のタイプのハードウェアのほうがより効果的な場合があります。
実際に、多くの業界固有のユースケースで小規模なモデルがよく導入されています。例えば、チャットボットや仮想アシスタントは、比較的小規模なドメイン固有のデータセットでトレーニングまたはチューニングされた軽量のモデルで実行できます。音声からの文字起こし、音声認識、感情分析、時系列予測、異常検出などのアプリケーションも同様です。
このような業界向けに最適化されたモデルは小規模のデータセットを使用するため、必要なコンピューティング・リソースも少なくて済みます。つまり、多くの場合 CPU のみで十分に処理できます。一部の CPU には、AI アクセラレーター・エンジンとニューラル・プロセシング・ユニット (NPU) がすでに組み込まれているため、AI 機能がさらに強化されています。
その結果、大規模なモデルが不要な場合は GPU ではなく CPU リソースを使用できるため、テクノロジー関連の意思決定者はよりコスト効率の高いハードウェア計画の導入が可能になります。
AI GPU のメリット
毎秒数兆回の計算を実行できる GPU は、大規模で複雑な AI モデルの高速化に欠かせない存在です。次のような利点があります。
- 並列処理: GPU の並列アーキテクチャーは、高スループット (データの処理速度) に最適化されています。このため、GPU はニューラル・ネットワークのトレーニングと推論に用いる膨大な数の演算を非常に効率的に実行します。この高い効率性が処理時間の短縮につながり、AI モデルの大幅な高速化が実現します。
- スケーラビリティー: ワークロードを分割して、複数の GPU に並列で処理させることができます。GPU をクラスターにグループ化すれば、AI システムの演算性能をさらに拡張することが可能です。この手法は、データセンターや研究施設で複雑なニューラル・ネットワークをトレーニングする際によく実施されます。非常に大規模なサーバークラスの GPU クラスターを使用してスーパーコンピューターを構築し、ハイパフォーマンス・コンピューティングを実現できます。
- 最適化されたソフトウェア: GPU アクセラレーションは通常、TensorFlow や PyTorch などの AI フレームワーク内で使用されます。これらのライブラリーとツール群は並列処理に最適化されているため、開発者は容易に GPU リソースを活用できます。
考慮事項
GPU は計算負荷の高い AI ワークロードの実行に優れていますが、AI アプリケーションに最適なハードウェアを選択する際には、コストおよびエネルギー使用量について考慮する必要があります。
- コスト効率: GPU は、複雑なニューラル・ネットワークを導入する場合など、計算負荷の高いワークロードを伴うトレーニングや推論のユースケースに最適な、コスト効率に優れたソリューションです。すでに所有しているハードウェアで実行できる可能性があるため、よりスリムな事前学習済みのモデルから始めることで、ハードウェアや冷却ソリューションへの多額の支出を削減できます。
- エネルギー効率: AI GPU は、ソフトウェアの最適化とメモリー・フットプリントの削減により、電力効率を飛躍的に向上させています。また、AI アクセラレーター内蔵の FPGA や CPU など、その他の種類の AI プロセッサーが、業界固有のワークロードでエネルギー消費量の低減に役立つこともあります。
AI ソリューション向け GPU
GPU は、事実上あらゆるタイプのコンピューティング・インフラストラクチャーで AI の処理能力を飛躍的に向上させると信頼されています。サーバーラック、ノード、個別のワークステーションに組み込まれ、パブリックおよびプライベートのデータセンター、エッジ、ハイブリッドおよび従来のコンピューティング環境で使用されています。
- データセンターでは、大量のビデオ映像から情報を抽出するなど、大規模または電力要件の高いワークロードの処理に使用されています。また、トレーニングやデータ分析などのリソース負荷の高いワークロードの実行や、レイテンシーが問題にならない場合には複数エッジソースから収集したデータの処理にも使用されます。
- エッジでは、ディスクリート GPU が高性能と複雑なモデルのサポートを必要とするユースケースに最適な場合があります。これらは倉庫内のカメラ画像の監視や複雑なロボットの動作の調整など、推論タスクに一般的に使用されています。また、エッジとデータセンター間にワークロードが分散されるハイブリッド・エッジ・アプローチにおいても一役買っています。高速で軽量なプロセッサーがエッジでほぼリアルタイムのインサイトを生成する一方で、データセンターの GPU はクラウドに送信されるデータに関する詳細なコンテキストをもたらします。ハイブリッド・エッジは、帯域幅の節約、レイテンシーの向上、セキュリティーの強化、データ・コンプライアンスの確保に役立ちます。
- オフラインまたはエアギャップのある環境では、AI 対応ワークステーションを使用して研究開発の促進、市場投入までの時間の短縮、科学的発見の加速化に使用することが可能です。